フィラリア症
フィラリア症は、年齢、性別、生息地に関係なく、どの犬でもかかる可能性のある寄生虫病です。これは、日本でも多くの地域で発症が見られます。フィラリア症は蚊を媒介として蔓延するため、蚊が大量に棲息する地域では発生率が高くなる傾向があります。フィラリアの宿主として最も一般的なのは犬ですが、30以上の動物種(キツネ、飼い猫、フェレットを含む)のほか、まれに人間も感染することがあります。
フィラリア症はどのような病気ですか?
フィラリアは、犬の心臓や隣接血管の血液中に生息する寄生虫です。この寄生虫は体長10~30cmまで成長します。感染後6~7カ月で成虫となり、約5~7年間生きることができます。心臓に寄生する成虫のフィラリアは子虫を産みます。これはミクロフィラリアといわれ、動物の血液中を循環します。メスの蚊が既に感染している動物を咬み、ミクロフィラリアを含んだ血液を吸い出します。そしてその蚊が他の動物を咬むことにより、伝染性の子虫が次の動物の体内へと移動していきます。感染初期には症状はほとんど現れません。
フィラリアは、血液の流れを制限することによって犬の心臓を圧迫し、他の内臓にも損傷を与える、犬にとっては最も危険で、よく見られる寄生虫です。負荷が増えることで心臓は肥大し、働きが悪くなり、その結果鬱血性心不全を起こす可能性があります。この疾患を放置すれば、犬にとって致命的なこととなります。
スクリーニング検査(血液検査)により、フィラリアの有無を確かめることができます。次の段階では、超音波検査やX線検査を用いて診察します。速やかに発見することで必要以上の苦痛を避けることができます。
フィラリア症の治療と予防
フィラリアの成虫と子虫を死滅させる薬剤(成虫駆除剤、ミクロフィラリア駆虫薬)を使う方法で、ほとんどの犬はフィラリア症の治療に成功しています。しかし、予防こそが最善の対処法です。より安全で、費用も抑えられ、なによりペットにとってもよりよい方法といえるでしょう。
フィラリア症の予防策には、注射、月1回の局所薬投与、月1回のチュアブルタイプや味付きの錠剤投与など、様々な選択肢があります。予防薬はきわめて効果的で、定期的に正しく投与すれば、愛犬がフィラリア症にかかるのを完全に予防できます。
ただし、年間を通しての、あるいは季節ごとの予防は、獣医師の指示どおりに、処方された薬を忘れずに投与することが重要だということを覚えておいてください。
住んでいる場所によっては、蚊にさされるのをふせぐための忌避剤を獣医師から勧められることもあるでしょう。
犬のフィラリア症の症状には、以下のようなものがあります。
- 呼吸困難
- 咳
- 疲労感、疲れやすい
- 無気力
- 体重減少
- 被毛の荒れ
地域や気候によってフィラリアのライフサイクルの特性が異なるため、愛犬に薬を与える前に、かかりつけの獣医師の意見を聞くことが大切です。かかりつけの獣医師は、愛犬の健康状態と活動スタイルに加え、お住まいの地域でのフィラリアのライフサイクルや感染経路などの専門知識を備えていますので、最も参考になる意見を聞けます。
すでにフィラリアの成虫の宿主になっている犬に予防薬を投与すると、重篤なショック症状を起こすおそれがあるため、予防プログラムを始める前にはフィラリアの成虫がいないかチェックする検査を必ず受けましょう。予防薬を投与されている犬は、(特に投与し忘れた場合は)予防効果が続いているか定期的に検査する必要があります。
フィラリアや他の寄生虫はペットから人に感染しますか?
ペットではなく、蚊がフィラリアを伝染させます。人間はフィラリアにとってあまりなじめない宿主であるため、人間への感染はまれです。フィラリア予防薬の多くは、鉤虫、回虫、条虫、鞭虫など、他の寄生虫も予防します。動物から人間にうつる可能性のある寄生虫感染症は、人獣共通感染症として知られています。
1.鉤虫
犬鉤虫症は、鉤虫の幼虫が口から入ったり、皮膚から侵入されたりすることで発症します。この幼虫は、犬鉤虫症にかかっている動物の糞や糞が混入した土の中に存在します。
幼虫はその後成長して腸に移動し、腸壁にくいついて吸血します。鉤虫の幼虫は皮膚を破って侵入することができます。また、感染している犬や猫の糞が混入した土や砂を触れることで、人間が感染することもあります。人間が宿主の場合、鉤虫の幼虫は宿主が動物の時のように腸に移動して吸血する成虫になることはありません。その代わり皮膚の下を動き回り、最終的には、皮膚幼虫移行症、または皮膚爬行症(クリーピング病)として知られる炎症性の皮膚反応を引き起こしながら死にます。清潔な状態を保ち、予防のための投薬を行い、獣医師による定期検査を受けさせることによって、愛犬に鉤虫を近づけないようにすることが重要です。また、野良犬や野良猫を砂場や庭に入れないようにしましょう。
2.回虫
回虫は犬の腸内に寄生し、消化されつつある食物を摂取します。鉤虫とは異なり、腸壁に付着することはなく、文字通り食べ物の中を動き回ります。成虫はスパゲティに似ていて、感染した犬の糞便や嘔吐物と一緒に出てくることがあります。犬の場合は、口に入るような土に混じっている糞便についた卵を介して、あるいは宿主となっているエサ動物(通常は齧歯類)を食べたとき、母乳を摂取したとき、または胎内にいるうちに感染します。回虫が原因で、下痢や嘔吐、ひどい場合には肺炎や腸閉塞を起こす犬もいます。人間の場合は、回虫によって内臓幼虫移行症として知られる深刻な状態に陥る場合もあります。感染者のほとんどは子供で、汚れた指を口の中に入れることで感染します。回虫の幼虫は、人間の口から摂取されると、通常の宿主内でなくてもそのライフサイクルを完了しようとします。回虫は人間の体内で行き場をなくし、通常眼の中で死亡します。その際、失明の原因となることもある炎症性反応を起こします。正しい手洗いによって感染を予防しましょう。子犬の駆虫を行うことと予防薬を投与することが、環境汚染を減らすことにもつながります。
3.条虫
犬に感染する条虫には様々な種類があり、ノミからの感染や、感染した生肉や内臓の摂取による感染など、感染経路も条虫の種類によって様々です。腸に条虫が寄生すると、感染の程度やその犬の年齢、状態にもよりますが、症状は発育不良、倦怠感があるといったものから、腹痛や軽度の下痢まで様々です。特定の種の条虫による人間への感染は通常、犬の糞便中に混じっていた卵を偶発的に口にいれてしまうことで起こり、深刻な症状を引き起こすことがあります。愛犬に生肉や内臓を与えないようにするだけでなく、定期的な駆虫剤投与や効果的なノミ駆除剤などの予防薬の投与は、犬や人間への感染を大幅に減らしてくれるでしょう。.
4.鞭虫
犬が鞭虫症に感染する唯一のルートは、卵の経口摂取です。卵が混じった地面を歩くと犬の足に卵がつき、その足や感染したおもちゃ、食器をなめることでその卵が口の中に入ってしまいます。鞭虫の卵は、厳しい外的状況下で数カ月、あるいは数年間も生き抜くことができます。飲み込まれた卵は1~3カ月以内に犬の腸内で孵化し、壁に付着して血液を吸うようになり、卵を生みます。犬の場合、鞭虫は下痢、体重減少、場合によっては貧血症を引き起こすことがあります。人間が鞭虫症に感染するのは極めてまれです。
後悔する前に安全の確保を
子どもは比較的すぐにペットになつき、キスしたり遊んだりするため、人獣共通感染症にかかる可能性も高くなります。寄生虫の幼虫はペットの糞便とともに排出され、土や砂を汚染している場合もあります。そのような汚染された場所で遊んだ子どもが口の中に指を入れると、同時に卵も口にしてしまい、感染します。鉤虫の幼虫は皮膚から侵入し、寄生することができます。糞便は必ずすぐに拾い、ペットと遊んでいる間に口にしてしまわないようにしましょう。人間と犬の全般的な衛生管理を徹底させることに加え、頻繁な手洗いも推奨されています。寄生虫やフィラリアの診断検査を含めた獣医師による定期検査と、健康チェックと予防薬の投与は、愛犬の健康を保つだけではなく、あなたとあなたの家族のリスクも軽減します。
参考:American Animal Hospital Association-Illness and Disease、Heartworm Association-Canine Heartworm
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